子どもの体力低下が懸念されています。2023年にスポーツ庁が、小中学生を対象に全国で実施した体力テストの結果では、愛知県の小学5年男子の体力が全国最下位という結果になりました。子どもの体力低下の原因には、テレビゲームの普及やコロナ禍での外出制限などにより、子どもが運動する機会が減っていることが挙げられています。
今回は、そんな現状を受けて動き出した、元教師の姿を追いました。
楽しみながら運動できる学童保育RING ANJO
安城市出身の角谷僚亮さんは、2023年度まで小学校の教師でしたが、教師を辞めて、学童施設RING ANJOをはじめました。子どもたちが放課後の時間を過ごす学童施設で、楽しみながら運動する機会を作ろうと考えたからです。
2024年7月にオープンした施設の1階には、子どもたちが思いっきり走り回って遊べる人工芝の広場があり、2階には学習スペースが設けられています。子どもたちはここで放課後の時間を過ごします。
体育の授業だけで体力向上を図るのは難しい
角谷さんに、RING ANJOをはじめた理由を聞きました。
「私は体育の教員をしていたのですが、自分たちが子どもだったころに比べると、跳び箱などが飛べなかったり、鉄棒や縄跳びができなかったり、転びやすい子どもが増えてきたように感じます。学校では週に数時間の体育の授業が設けられていますが、それだけで体力向上を図るのは難しいです。そこで、遊びながら体力向上を目指せる施設があればいいと考えました」
開業にあたっては、クラウドファンディングを通して資金を集め、保護者や地元企業からも支援を受けました。
日本社会の問題を解決することにもつながる
クラウドファンディングなどに協力した、建築デザインなどを行っている、株式会社スカイグラウンド代表取締役、後藤雅仁さんは、その理由についてこう語ります。
「今の子どもたちが体力不足だというのは、私もすごく感じています。そんな中、角谷さんの考えていることは、日本社会の問題を解決することにつながっていると思ったので、応援したいですね。」
子どもの体力に不安を感じる保護者も多い
夏休み期間中には、朝から子どもたちが訪れ、1日の長い時間をここで過ごしています。RING ANJOに子どもを預けている保護者に話を聞きました。
「子どもの体力低下が気になっていたので、ここに申し込みました。愛知県の子どもたちの体力低下については学校でも話題で、夏休みをのびのびと健全に過ごしてもらいたいと思っています」
子どもの体力に不安を感じる保護者も多く、教師経験のある角谷さんに見てもらいながら体力向上を目指せるこの施設には、安城市内だけでなく市外からも多くの子どもたちが集まります。
ゲームがしたい子どもたち
RING ANJOで、子どもたちは裸足で走り回り、思いっきり身体を動かします。しかし、子どもからは「ゲームがしたい」という声があがることもあります。普段はゲームで遊ぶことが多い現代の子どもたちは、たとえ施設が整っていても、身体を動かして遊ぶことに抵抗のある子もいるのです。
角谷さんはこれについて、「ゲームがしたいのは自然な感情なので否定しません。子どもは、それ以上に面白いものがあればそちらを選ぶので、みんなが満足できるプログラムを工夫していく必要があります」と語ります。
取り入れたのは「パルクール」
RING ANJOに訪れる子どもたちは、小学1年生から6年生までです。学年が違えば体格や体力も全く違い、運動が得意な子も苦手な子もいます。そのような中、みんなが楽しめることとして角谷さんが思いついたのがパルクールです。パルクールとは、フランス生まれのトレーニングで、走る、跳ぶ、登るなど移動の動作を使い、障害物を越えていくというものです。
角谷さんはパルクールを取り入れる理由をこう語ります。
「パルクールには基本的にルールがなく、やりたいように体を動かせる自由性があります。そのため運動が嫌いな子でも楽しめるのが特徴です」
運動が苦手な子でもできる
障害物を順番に素早く越えるということ以外は、特にルールを設けないことで、運動が苦手な子でも、自分のペースで障害物を乗り越え、成功体験を味わうことができます。始めはゲームをやりたがっていた子どもたちも、そのことを忘れたようにパルクールに取り組んでいました。
さらにパルクールの効果について角谷さんはこう言います。
「障害物を乗り越えた後にバランスを崩して倒れることもあります。そういうときに受け身がとれると怪我をしなくなります。普段はやらない動きを自分で考えることで、成長をうながす目的があります」
運動が心にも変化をもたらす
運動することは体力の向上だけでなく、心にも変化をもたらすことがあります。
RING ANJOの取り組みを支援している渡邉裕子さんは、角谷さんが以前担任をしていた子の母親です。
「うちの子は不登校だったのですが、5年生になって角谷さんが担任になってから学校に行くようになりました。うちの子はサッカーが好きで、先生もサッカーをしているということから先生に心を許したのではないかと思っています」
角谷さんは「身体を動かす中でコミュニケーションが取れたと思います。一人ひとりが何をしたいのか。何が好きなのかを考え、好きなことを中心に活動できるようにしています」 と話します。
地域全体で子どもを育てていく
子どもたちが好きなことを見つけ、いろいろな経験をして成長していくために、今後は地域全体に取り組みを広げたいという角谷さん。
「子どもを育てる自信がないという人もいますが、地域の人みんなで子育てできる環境があれば、そういう人も安心して育てられると思います。大人の中には習字やそろばんなどが得意な人もいるので、そういう人が参加して、ゆくゆくは子どもにいろんな経験をさせてあげられればと思っています」
教育機関に限らず、地域全体で子どもを育てていく。RING ANJOがその拠点になることを目指し、角谷さんは今日も多くの子どもたちと向き合っています。(取材・撮影:PAQLA/リライト:石川玲子 2024年7月取材)
RING ANJO
住所:愛知県安城市横山町下毛賀知2-10
「シリーズ 新しい時代を生きる」は、キャッチの番組でも放送中!
番組名:特集「地域の今」
地域で今起きていること、取り組み、人々の姿を深掘り。
「シリーズ 新しい時代を生きる」
コロナ禍を経た社会、物価の高騰、少子化による人口減少など、様々な課題がある中、乗り越えようと取り組む地域の人たちを取材し、ともに地域の未来を考えます。
詳しくは、KATCH番組紹介ページ・特集「地域の今」をご覧ください。
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