自動車部品の大手メーカー、アイシンが開発した機器から発生しているのは、目には見えない世界最小の水粒子です。この水粒子が今、大きな注目を集めています。AIR(アイル)と名付けられた微細な水粒子は、肌や毛髪への効果が期待できるだけでなく、医療や農業、食品の分野など、生活の様々な場面において役立つこともわかってきました。今回は、世界最小の水、AIRの開発に取り組む研究者たちに密着しました。
世界最小の水粒子AIR
アイシン AIR事業推進部 広報担当の冨永優子さんに、世界最小の水粒子AIRを発生させる機器を紹介してもらいました。
「目に見えませんが、今この機械から発生しているのがAIRです。AIRの粒子は、やかんの湯気の約600分の1の大きさですので、目には見えないですし、触れても手が濡れないという不思議な水です」
AIRは、肌や毛髪の潤いを長時間持続させることができ、トラブルの改善に効果が期待できると言います。
きっかけはベッド事業
アイシングループの製品や歴史などを紹介するコムセンターは、誰でも自由に見学できる展示施設です。自動車部品が並んでいる展示フロアの一角に、AIRを発生する機器が展示されています。アイシンでは2020年までの54年間、ベッド事業を展開していました。 そこで行われていた睡眠の質の向上に関する研究の中で、AIRが誕生しました。
AIR事業推進部 部長 井上慎介さんにお話を聞くと、最初は睡眠時の乾燥改善を目的として研究に取り組み始めたのだそうです。
睡眠の質改善から水の研究へ
「通常は、外から肌に水を入れても肌に残ることはないのですが、大学医学部との共同研究で、AIRを浴びると肌の水分を長時間持続できることを発見しました。なぜそういう現象が起こるのかということを解明するために水自身の特性などを調べ始めたというのが、開発の経緯です」と、AIRの開発チームを牽引してきた井上さんは話してくれました。
ベッド事業に長く携わっていた井上さん。喉や肌の乾燥などを解消し、睡眠環境を改善しようという取り組みから派生し、水を研究するプロジェクトがスタートしました。
AIR研究開発チーム
開発チームが活用したのは、睡眠の研究によって培ってきた知見と、自動車やオートバイの排ガスの不純物を取り除くカートリッジの技術でした。これらを組み合わせ、空気中の水分子を取り込み、ナノサイズの微細な水粒子へ変換、放出する技術を確立したのです。
スチームのおよそ600分の1という世界最小サイズのAIRは、肌や毛髪の内部に浸透し、留まることで潤いを長時間に渡って持続させることができます。
苦難の連続
肌や毛髪のトラブルの改善に役立つと大きな注目を集めているAIRですが、その開発は苦難の連続だったと井上さんは話します。
「まず、開発当初にぶつかった壁が、目に見えないほど超微細な水粒子の大きさを測る計測器が世の中になかったことでした。色々な大学や研究機関を調べていると、空気中の微粒子を測る技術を専門にしている先生がいらっしゃって、応用できるかもしれないということになりました」
自社だけでは限りがあるため、一緒に研究を進めてくれる大学や研究機関など社外の連携先も不可欠だったのです。
共同研究によってAIRの効果を証明
さらに、その社外連携先の確保も簡単ではありませんでした。
「目に見えないものなので、信じてくださる方もいれば怪しまれる方もいました。臨床結果を見て可能性を感じて、共同研究をしてくれる先生に出会うまでには1年以上の時間がかかりました」
こうして興味を示してくれた複数の大学や医療機関などと実証実験を重ね、AIRの効果が次々に立証されていきました。
6年をかけて商品化
そして、研究を始めてから6年後の2021年に、毛髪用のAIR発生器の商品化が実現しました。
「みんなで一生懸命やってきたことがようやく形になり、お客様に喜んでいただけるということが実感でき、うれしいと同時にほっとしました」と井上さんは当時のことを振り返ります。
開発当時から携わった、カートリッジ開発担当 山黒顕さんは、「ずっとやってきた技術がこうやって花開いていくところまで携われているということがうれしいですね」と話してくれました。
研究によって明らかになった新たな効果
パーマやカラーの際に使うと薬剤の浸透がよくなり、持続性が高まるなど、肌や毛髪の保湿以外の効果も研究を続ける中で次第にわかったそうです。
AIR事業推進部 研究開発室長 田端友紀さんに話を聞きました。
「色んな大学と共同研究をしながら効果を証明していくのですが、先生方が興味を持ってやってくださって、味方が増えたな、という気持ちです。新しいことが色々分かって、幅が広がりました」
熱意ある社員が集まる部署に
当初はたった4人だった開発チームの社員も今は50人まで増え、他の部署から異動を希望してきた人も多くいます。社内のオープンエントリー制度で異動を希望した、研究開発担当の大越賢也さんは次のように話してくれました。
「社内でも特に先進的な技術を扱っている部署なので、チャレンジ精神が旺盛な社員もいて、日々その熱意に刺激されながら仕事をしています」
研究員たちの熱意でAIRの研究はさらに進められ、食品や医療など様々な分野で活用の道が開けてきています。
食品分野での活用
現在進めているのが、お茶製造への活用です。静岡県焼津市の製茶会社で製造している、乳酸発酵させたお茶の製造工程にAIRを使用するというものです。
研究開発担当 岡本祐介さんに紹介してもらいました。
「茶葉を乳酸発酵させたお茶で、爽やかな酸味と豊かな香りが特徴です。茶葉にAIRを照射することで乳酸発酵が促進され、より酸味の強い香りの豊かなお茶になります」
この他にも、AIRを使用することでアトピー性皮膚炎の改善を示す医療現場からの臨床研究の発表もあり、開発当初に予想していた以上の新しい発見が続いています。
AIRで世の中の困りごとを解決したい
井上さんにAIRのこれからの目標をうかがいました。「非接触、非侵襲という水の力だけで肌や髪に作用できる特徴がありますので、例えばワクチン等を、注射針を使わずに作用させられるような技術が実現できれば、世界の困っている人に貢献できるのではないかと思っています。AIRで世の中の困りごとを解決していきたい、という思いで取り組んでいます」
世界最小の水粒子AIRの開発は、『全てのひとに健康で快適な生活を送ってほしい』という思いで進められています。研究員たちの情熱で、その可能性は大きく広がっているのです。
(取材・撮影:映像舎 /リライト:石川玲子 2024年7月取材)
株式会社アイシン
本社所在地:〒448-8650 愛知県刈谷市朝日町二丁目1番地
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