1944年12月に発生した昭和東南海地震と、それからおよそ1か月後に起こった三河地震からちょうど80年。安城市歴史博物館では、特別展 「地震と災難-宝永地震から三河地震まで-」を開催しています。
今回は、この展覧会の準備に奔走する学芸員や関係者に密着し、展覧会が形作られる過程を紹介するとともに、史料を通じて、復興を遂げた先人に学びます。
町内会事務所へ資料の借り出しへ
安城市歴史博物館の学芸員 三島一信さんと本部はる香さん。この日向かった先は安城市榎前町の町内会事務所です。町内会長に案内された建物の一室には、天井まで段ボールが積まれていました。そのなかには榎前町が保管する書類などが収められています。特別展 「地震と災難-宝永地震から三河地震まで-」のため、榎前町が保管する史料を借り出しに来たのです。
地域の人にも史料に興味を持ってもらう
史料は過去の調査ですでに整理が済んでいるため、予めリストで確認して必要なものだけ借り出します。本部さんは、史料の記載内容を町内会長に説明していました。こうすることで、地元の人にも史料に興味を持ってもらい、保管する意義を知ってもらうのも学芸員の役目です。学芸員のこうした丹念な調査で展示が形作られていきます。
当時の貴重な記録が残っている
その他、この地域には、三河地震当日の様子やその日のうちに出された支援項目が記された、現在の刈谷市小垣江地区の記録も残っています。震災当日にこうした支援が打ち出されていたことはあまり知られていません。他にも、安城市箕輪地区では家屋の被災状況が詳細にまとめられていました。戦争中で金属資源が乏しいなか、応急修理のため、被災者に釘が分配された記録も残っています。
地震への対応の違いを見ることができる
特別展 「地震と災難-宝永地震から三河地震まで-」では、この地方の人々と巨大地震との関りを史料からひもときます。企画の狙いを本部さんに聞いてみました。
「地震が実際に起きた場所は遠くても、三河にも影響がありました。安政江戸地震では、江戸へ出稼ぎに行った人が村の人たちに無事を伝える手紙が史料として残っています。それぞれの時代、被害によって人々の対応が少しずつ違ってきているという点もぜひ見ていただきたいと思い、企画しました」
資料をデジタル化し保存するのも役割
この日は博物館の一室で、先日榎前町から借りてきた史料を撮影します。80年も前の書類で破れやすくなっているため、慎重にページをめくりながら、1ページずつ写真に収めていきます。展示に使う部分だけでなく、すべてをデジタル化し残すことも博物館にとって重要な役割です。
被災者自身が復興のための人手に
今回の榎前町の史料のなかで、本部さんが注目するものがあります。 「三河地震の際に、物資も人手も不足する中で人々がどのように復興に向けて動いていったかということを、この史料から見てもらいたいです」
被災直後の家屋の被害やどのような資材が必要かといった調査の記録には、地区ごとに人を募り、木材を伐採しに行って調達したことが記されています。当時は、被災者自身が復興のための人手となっていたのです。
展覧会で販売する図録の作成
特別展の開催までひと月余りとなった10月24日、本部さんが行っていたのは、展覧会で販売する図録の校正作業です。展示される史料を中心に、その解説や周辺情報も載っている図録は楽しみにする人も多く、誤りがあっては大変です。三島さんや、ほかのスタッフも一緒に、繰り返し入念なチェックが行われていました。本部さんは、「言葉や年号の書き方の統一などは何度も見直したつもりでも漏れが見つかることがあります。あとは、自分の思っていることがちゃんと伝わる文章になっているかどうか、いろんな人に見てもらうようにしています」と、校正作業について話してくれました。
県外からも史料を借用する
10月30日、三島さんは、これから博物館などから借用する史料の状態をあらかじめ写真で確認していました。これは破損状態などを先方と確認する書類の作成作業です。こうした作業も学芸員にとって重要な仕事です。
そして11月6日、三島さんの姿は和歌山県立文書館にありました。これから3日間、和歌山と三重で史料を借り出します。あらかじめ用意しておいた書類で史料の状態を確認していきます。
専門業者に依頼し貴重な史料を運搬する
次は和歌山市から南下して印南町へ向かいました。ここでは、安政南海地震の津波被害について子孫に伝えるために板壁に残された書置きを借用します。こうした大きな史料は専門業者が厳重に梱包し、トラックで博物館まで運搬します。こうした地道な作業があって、展覧会は開催されるのです。
展覧会の見どころは
展覧会の見どころを本部さんに聞きました。
「いろいろな時代の史料を見ていると、地震が発生した後すぐに人々が動き出していることがわかります。被害を受けた場所を実際に調査した報告であったり、自分の家や地域の片付けだったりとか、まずは自分ができることからしているんだという印象を受けます。今回の展示をみた皆さんにとって、地震が起きた後、自分がどのように行動したらよいのか考えるきっかけになればと思っています」
(取材・撮影:オフィスげんぞう/リライト:石川玲子 2024年10月~11月取材)
安城市歴史博物館
愛知県安城市安城町城堀30番地
公式サイト
特別展 「地震と災難-宝永地震から三河地震まで-」は、2025年1月19日まで開催中。期間中、関連のクイズラリーなどの催しも予定されています。
※コラム内で紹介している史料には展示されないものがあります
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